その日、私はJR東千葉駅から徒歩5分のところにある古本屋へ向かっていた。というのも、今日ここで随分と長い間開けていない部屋を開けると言うので、「端さんもどうですか?」と誘われたのである。
そう、私は端なえといって、小規模な個人誌を出している、言わば同人ライターである。今日、今から訪れる中久保書房の主人といつの頃だったか、仲が良くなって、こうして誘われたのである。
JR総武線千葉駅からわずか5分ほど。東千葉へはあっと言う間に着いてしまう。着いてしまうが、この駅には快速も停まらないので、普通電車でしか行けないのである。
ホームを降りて階段へ。改札口は一つしかなく、出てみると、歩道橋のようなところへ出てしまう。中久保書房へはここを右を曲がる。
中久保書房は駅のまん前にある。
店のドアから入ろうとすると、ドアに休業の文字が。
そう、この日を使って開けようと言うのだ。
しかし。どうしようかと困っていると、奥の方から中久保さんが出てきた。
「あ、端さん早かったですね」
「一駅しかないですからね。…、で作業の方は?」
「ちょうど今からやろうかなと思っていたんですよ」
「あ、そうなんですか」
「じゃ、早速行きましょうか」
中久保さんは私の先頭を行き、その部屋の前へと行ってみる。ちょうど店の裏側に位置し、一見倉庫のようなそんな姿を見せている。
「ここはいつから開けてないんですか?」
「それが解ってないんですよねぇ。おそらく、僕がこの店を任された頃には開かずの部屋なんて、近所でも噂になってましたからね。多分、それ以前なんじゃないかと思いますが…」
中久保さんがここを任されるようになったのは25年程前だそうである。
「じゃぁ、そうすると随分前からですね?」
「ええ、そうなりますね。さぁ、開けますよ!」
そう言うと、中久保さんは鍵穴へカギを差し込み、ドアを重々しく開けるのであった。
実は言うと、これがこれから始まるハナシの序章とは、私は思っていなかったのである…。