ヒステリック・ザ・アナザードはやしまさあき
第一話-始めて読む方へ・・・-
 舞台となるのは東京から電車で30分程で着く千葉県千葉市。その
千葉市内の市街からちょっと離れた雑居ビルにある、内原理臣探偵事
務所。話はそこから始まる。
 それはまだ、春遠い2月のある日の事だった。
所員である、金田一は夕方の定時まで書類の整理に追われていた。
ふと、窓の外を見ると雪がふわりふわりと降っている。
 「あ、雪だ」
金田は思わずそう呟いた。
 「え?金田君って、雪見た事なかったけ?」
 所長である、内原理臣はそう切り替えした。
 「いやぁ、そんな事ないですけど、あの。ほら、ここらへんじゃぁ
珍しいでしょ?」
 「あれ?今回の冬は結構降ったと思うけどなぁ」
 金田は呆れて言い返す。
 「・・・、それはぁ。実際の世界の話で、今はこの小説の中での・・・」
 「あ、はいはい。分かりました。そうでしたね、千葉は割と暖かい方だから
あまり降らないんだよね」
 「何もそう嫌味っぽく言わなくても、・・・ねぇ三十村君・・・」
 金田が同情を求めて三十村文章はそこには居なかった。
 「・・・、あれ?所長、三十村君って今日も休みなんですか?」
 「いやぁ、自分のところには何にも連絡は着てないけど、ところで。これって
三十村って書いてサトムラって読ませてんだよね、たしか」
 「なんですか急に!」
 「だって、始めて読む方のほうが多いと思って・・・」
 「・・・、ったく」
 「どしたの?」
 「にしても、どうしたんでしょうね?」
 「と言われても・・・」
 と、二人が内容のない会話をしている頃であった。所変わって、千葉港の貸し倉庫の隅。
 その渦中の三十村は囚われていたのであった。
 「なぁ、アナザードの行方はどうなったんだ?」
 パイプ椅子に縄で縛り尽くされた三十村にグラサンの男が問い掛ける。
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「なんだ、まだ粘る気か?そっちがその気なら、こっちにも考えがあるんだ。あんた、
今、興信所に勤めているらしいじゃないか」
 その言葉を聞いた三十村の表情が変わった。
 「いや、殺しはせん。殺さなくても、その一歩手前まで出来るんだぜ?」
 台詞の語尾を強く強調した。三十村は更に険しくなっていく。
 「ほぉ、巻き添えはさせたくないと」
 グラサンの男は三十村に顔を近づけて、
 「じゃぁ、何故言わないんだ?」
 と、迫って来る。
 同時刻、内原理臣探偵事務所。そこに訪ねる人が一人居た。
 ドアをノックする音が部屋中に響く。
 その音に反応した金田は
 「あ、今日はもう閉めるんですけど・・・」
 と、一応ドアをあけると、巨大な顔がそこにはあった。
 「巨大ってまだ、何かましな言い方もあるだろ?」
 ない、絶対ない。
 「まぁ、いい。ここに三十村は居るか?」
 その質問に金田は
 「三十村とは何か・・・?」
 「いや、風の便りに聞いたんでな」
 「はぁ」
 と、その時であった。奥に居た内原が
 「あれ?七色万能研究所のオウムさんじゃないですか?」
 と、言った。
 その言葉に反応するかのように七色オウムは
 「何故、私の名前を?」
 「いやぁ、だって。三十村があなたのところで以前、お世話になってたじゃないですか」
 「・・・、何故それを」
 「私だって伊達に探偵をやってませんよ、ましてや。悪い噂なんて直ぐに耳に入ってきます
からね。オウムさん、今日はあれですか?アナザードの事で来たんですか?」
 その言葉を聞いた七色は一瞬、微笑んだ。
 「内原さん、貴方には構いませんね・・・。実は」
 外ではまだ雪が降っている。時間帯は夕暮れ。
 内原理臣探偵事務所には緊迫したムードが流れていた。そして、それを一人で背負い込むように
 神妙な表情で七色が語り始めた。
「…、実は。アナザードって知ってますか?」
「それって三十村の…」
「そう。三十村に仕込ませたんです。それを忘れていて、毎夜毎夜、人体実験を繰り返してきた。
で、それはおかしいと…」
「三十村に裏切られたとでも言うんですか?」
「いや、私がいけないんです。…、あ。忘れるところだった。三十村が持ち出したアナザードの
注入する薬のストックが無くなってきていると思うんです」
「え?」
 思わず、内原と金田は顔を見合わせた。そして、金田が切り出した。
「しょ、所長。三十村君。たしか、今日。指名されたんですよね?」
「ええと、場所は何処だっけ?」
「千葉港の倉庫です」
「…、まさか」
 内原が深刻な表情を見せる。それを見ていた七色が
「薬だったらここにあるが」
と、小さな瓶をテーブルの上に出した。
 それを見た途端、金田が
「あ、僕が届けてきます!」
と、言ったのだが内原がそれを遮る。
「いや、俺が行こう」
「所長…」
「なぁに、心配するな。昔採った何とやらだ」
 呆気に囚われている金田を尻目に内原が外へと向かう。
 同時刻。千葉港。
 三十村はまだ、囚われの身である。
 脅迫していた男は何処かへ姿を消してしまったらしい。
 三十村がふと天を仰ぐ。
 天窓からは雪が降っているのが見えた。
「あー、雪かぁ。なんでこんなとこで見るんだろう…」
 と、その時であった。天窓に横切る影を見えたのは。
「…、まさか。ガッチャマン?でも、白くなかったよなぁ」
「白くなくてすまんな」
「はっ!」
 その影は三十村の背後にいた。
 そして、三十村はその正体に気が付いたようだ。
「白じゃなくて黄色じゃないですかぁ」
「そんな事を言ってたら更にやらないと訳が解んなくなるぞ」
「だって、所長ってムカシは黄頭巾って言う怪盗だったんでしょ?」
「見ろ、説明しちゃったじゃないか。あ、そうだ」
 内原はポケットから瓶を取り出す。
 それを見た三十村は
「あ、それは」 
「オウムさんは怒ってなかったようだぞ」
「来たんですね」
 三十村は少し、シュンとした表情になった。しかし、内原が何かに気が付いたようである。
「ほら、戻ってきたみたいだ、じゃぁな」
   「あっ」
 内原はスッと姿を消した。
 男は三十村に向かって
「誰か来てたみたいだなぁ、んー」
 しかし、三十村は無視している。
「なんか言ったらどうだっ!」
 三十村は瓶を取り出し、肩口に作られた挿入口に薬を注入する。
「あ、お前っ!まさか」
「ったく。まさかじゃないよ。あんたが見たがっていたのはこれだろ?」
    と、言うと三十村は自分の手をナイフに変形させてみせた。そして、ロープを斬った。
 それを見た男は焦っている。
「まままままま、待ってくれ!俺は頼まれたんだ!」
「…、誰にだ?」
「名前は聞かなかったんだ、いや。合わせれなかったんだ」
「まぁ、お前みたいな雑魚に会う暇もなかろう」
「…、なんだってぇ?」
 男は思わず、怒った。そして、三十村に向かって走ってくる。
 しかし、三十村は一瞬でナイフから日本刀に変化させる。
「あ」
 三十村は向かってくる男を斬り捨てた。
 それを見ていた内原が
「ったく、世話焼きやがって。さぁ、帰ろうか」
「…、あ。金田君のジョブが…」
「まぁ、そのうちやるって」
「本当かなぁ」
取り合えず、おしまい。
過去の書庫