雨男/はやし まさあき
その年の夏、私は大阪で引き返そうと思ったが、思いつきで九州まで足を延ばす事にした。まぁ、予定が
なかったのである。しかし。そんな私にまとわりつくモノがある。雨だ。何故か、行く先々で雨が降る。旅行
中に限られないのが不幸中の幸いであるが。
そして。今日も雨が降った。前日の東京発の大垣行き(当時)で集中豪雨が降り、沼津で一時間以上も停
まった。ここまでくると、もはや運が良いと言っていい。旅行中に鉄道が停まるなんて、希にないことだ。
まぁ、私は過去二回あったが…。
ところで。それを見たのは、そう。東海道本線と山陽本線を行き来する新快速に乗っている時であった。海
南から野上電気鉄道という私鉄(現在は廃止されました)があり、その私鉄に乗りに行った帰りであった。何
故、新快に乗っているかと言うと冒頭で書いたとおり、である。その夜に乗る『ムーンライト九州』が京都始
発であったからだ。海南から和歌山まで紀伊本線に乗り、そこから天王寺まで阪界線。天王寺から大阪環
状線で大阪に出て京都まで新快に乗ったである。時刻は8時頃。既に帰宅ラッシュが終わり、車内はガラ
ガラであった。私は、迷わずボックスに座った。そして、その瞬間がやってきた。反対方向から電車が来た。
普通なのか快速か何かが解らないが、やってきた。夜は、外より車内の方が明るいので鏡と同じになってし
まう。そんな事を思いつつも外を注意深く見ていると、隣の車窓の灯火の中に見たことがない顔が写った。
しかも、その顔をある位置は、自分のいる場所である。そうか。これで解ったぞ。私の中にもう一人の自分が
いて、其奴が雨男だったのである…。
私は、物書きの前に絵描きであったりする。つまりだ。小説などでの台詞回しは、一人の人間がやってい
るのではなく、二人の人物がやっているのである。私の場合、そのもう一人の方が雨男だったのである。そ
んな事だったのである。だから。もし、私と旅行して着いた先で雨が降ったら其奴のせいである。はぁ。これ
でなんとか、言い訳が出来るな。やれやれ…。
(初出:洗脳されるぞっ!!R第15号;平成9年7月7日発行分)
後日談:この小説と言うか何て言うか。まぁ、大きな括りとしては小説としていますが、この小説は読んでの
通り、短いため、ページが余る度に再掲載されていたので、上の初出はかなり怪しいです。ちなみに、今年
の3月頃までやっていた『ネタがないっ』内の『2枚半でGO!』で、同じタイトルのを3回か4回ほどやりまし
たが、同じ設定を借りてのシリーズ物と言う事にして置いてください。それ依然に、『ネタがないっ』を読んだ
事がある人いるんでしょうかね。かなりマイナーだと思うんですけど。
にどうぞ。